第5章(9/12) パニック障害「私さえ我慢すればこのまま生きていける」35歳の既婚女性。 2ヶ月前にひとりで車を運転しているとき、急に息苦しくなってきて、心臓が高鳴り、手足も痺れてきた。自分は死ぬのではないかと思ったほどで、車を運転するのが怖かったので救急車を呼び病院で検査してもらった。異常がないのでそのまま帰されたが、その後何度も発作が起きた。そのつど病院に行くが、異常が見つからない。テレビでパニック障害のことを見て、自分とそっくりだったので来院したとのこと。 大林先生はお優しいなと思いました。こんなふうにおっしゃっているからです。 「パニック障害はマスコミで取り上げられる機会が増えたせいもあり、最近は彼女のように患者さん自身が診断を下して来院することも珍しくない。そこで、彼女の診断が正しいかどうか、一緒に本を開いてパニック障害の診断基準の項目をひとつひとつ当たってみた」 ※下線は私(平井)による。
患者を診て診断を下すのは、医師の独占的な能力というか、権限だと考えているお医者様も少なくないです。患者さんの自己判断が正しいのか、一緒に調べて?くれるというのが、親身ですよね。なかなかできない謙虚な姿勢だと思います。
これに加え、彼女は再び発作が起きるのではないかという不安(これを予期不安という)のため、発作が起こりやすくなる状況や場所が怖くなり(空間恐怖とか広場恐怖とよばれている)、いつのまにかそれを避けるようになっていた。(124ぺージ) 大林先生は彼女は典型的なパニック障害と判断し、まずは薬物療法を試みます。 二週間後来院した彼女は、薬の効果で、発作は起こっていないといいました。発作が起こりそうになったことは何度かあるけれど、途中で止まる感じ。ただ、日常生活での外出はできるようになったが、まだ電車や高速道路は不安だと。 大林先生は、薬を続けるように指示する一方で、こんなアドバイスをします。「少しでもできそうだったらやってみる、それがうまくいったらもう少し頑張ってみる」こと。 そのアドバイスに従って、彼女は、少しずつ自分で行動範囲を広げる努力をした結果、約二ヶ月ぐらいで症状が気にならなくなったそうです。大林先生が、「後は薬をいかに減らすかが問題かな」と考えているころ、「いつもと違う表情で来院した」彼女がこんなことを打ち明けます。 「実は主人と別れ話が出ているのです。半年ぐらい前からなんですけど(以下略)127ぺージ」 家族のことには無関心で、自分のことしか考えない主人はもう信じられないけれど、子供がいるから頼りたいという気持ちがあって、離婚を迷っていたのでした。
----------------------------------------------------------- 2ヶ月通院しているあいだに、大林先生は彼女にとって「家庭の秘密を打ち明けても大丈夫な人」に変わったのでしょう。 このあとの面接は、心療内科の診察室というより、大部分がカウンセリング室でのカウンセラーとクライアントの会話そのものと同じ性格のものになっていったようです。 この例も、根本的な解決のカギは、患者さんが自分で自分の気持ちを確かめたことでした。 相談者(患者)さんは、先生に自分のことを話していくうちに、だんだんと気持ちの整理がついていき、そして、最後に、友人の存在が後押ししてくれました。 古くからの友人に相談したところ、離婚してもあなたはあなたよ、私たちの関係は変わらない、と励まされ、離婚の手続きをはじめたのでした。
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