過敏性腸症候群

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第8章(8/12) 過敏性腸症候群「男の人と親しくなるのが怖い」

25歳T子さんは、朝の通勤電車が苦手でした。

トイレのない電車に乗ると、おなかが痛みはじめ、30分の乗車時間が我慢できなくなり、途中何度も下車してトイレにかけこむ状態が続いていました。少し長くなりますが、本から引用させていただきます。

「ちなみに、過敏性腸症候群とは、検査では異常がないのに下痢やガスなどの便通異常や腹痛がある状態をいう。症状の特徴により下痢型、便秘型、下痢便秘交代型、および、おならが主体のガス型などに分けられる。彼女の場合は下痢型である。」

「多くは緊張や不安を感じる場面などで悪化しやすい。(174ぺージ)」

「彼女に対する治療としては、整腸剤などを定期的に服用してもらう一方で、電車に乗るときなど、緊張が予想される状況の前にあらかじめ抗不安薬を飲んでもらうことにした。これに加えて自律訓練法を指導した。これは心身のリラックスをはかり、自律神経のバランスを調整しようとするもので、自己暗示を利用して手足の重感や温感を導くものである。」

「自律訓練法は心臓内科領域の病気に対しては広く利用されているが、とくに緊張や不安が関与しているもの、たとえば対人緊張、筋緊張性頭痛、入眠困難型の不眠、過敏性腸症候群などには効果的であるとされる。もっとも、自律訓練法をせっかく習得しても、長期間にわたって自宅で練習するひとは多くない。やはり目に見えて変化がないためや、毎日ひとりでやる練習に飽きてしまうなどの問題があるのだろう。なお、こうした治療法は過敏性腸症候群に対する一般的な反応でもある。(174ぺージ)」

その後T子さんの通院は半年ほど続くのですが、天候が悪くてキャンセルが多く、外来が暇だったときのこと。予約通り来院した彼女は、自分から「これは病気とは関係ないことなんですけど」と、家族のことを話しはじめるのでした。

父親がアルコール依存症で、職場ではおとなしく温厚な人だと思われているけれど、酒を飲むと人が変わってしまう。姉は家に見切りをつけて独り暮らしをしている。

家で父親が酒を飲みはじめると自分の部屋に逃げ込むのだが、母親が相手をしていると口論になり、自分に助けを求めてくるので、けっきょく父親に怒鳴られたりする損な役割を負わされる。外で父親が酒に酔って警察沙汰になったときも、母親が嫌がるので彼女が引き受けるはめになる、と。(178ぺージ)


これ以降、大林先生は彼女にもう少しだけ時間をさくことにしました。一回あたりの時間がまちまちになってもしかたないと、そのときは思っていたのです。


T子さんのお父様は、ふだんはおとなしく何も言えないで気持ちをため込んでしまい、酒の力を借りて、鬱憤を晴らすタイプなのですね。家庭を守るべき父親が、家庭を崩壊させている。家族のなかで一番父親が子供っぽい。

次に、母親も問題。父親から娘を守るのが親の役目だと思うのですが、逆に子供に自分を助けてもらおうとする。

親が子供のようで、子供が保護者のよう。親子関係が逆転しています。


T子さんも家を離れるチャンスがなかったわけではない。転勤話がもちあがったこともあったのですが、父親はしらふでは黙っていたのに、酒を飲んだとたんに大暴れ。母親にも「あなただけがたよりなのよ。行かないで」と懇願されてあきらめたとのこと。

「私みたいなのをアダルトチルドレンとか共依存っていうらしいんですけど、どうしたらいいかわからないんです。」(180ぺージ)


その後の面接で、話の流れから結婚のことを訊ねると、T子さんは、じつは男性が苦手で、相手に好意を寄せられると急に遠ざけたくなることを打ち明けるのでした。

異性との交際に困難を感じていることを知り、治療者として意欲をかきたてられた先生でしたが、彼女は逆に転院を強く希望するのでした。

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彼女が帰った後、私は複雑な思いに駆られた。

また、基本的なミスを私がしていることにも気づいた。

それは、精神的内界を治療の中心とするときは、診療(面接)の頻度や時間、そこで話すべきことなどを、あらかじめ確認し合ってからはじめるべきだという原則である。

彼女の場合、下痢や腹痛などの身体症状の治療で通院がはじまったため、こうした確認作業がなおざりになってしまっていた。
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ここは、私もよく肝に銘じておこうと思います。

大林先生は、それまでと同じ流れのまま治療をしようとなさったのでしょう。これは治療者としては『この人をよくしてあげたい。希望をかなえてあげたい』というお気持ちだったと思います。

でも、ここが精神的な治療の特徴というか、難しく限定的なところ。ハッキリ口に出して確認しないまま、相談者(患者・クライアント)の言語、もしくは無意識にある欲求に、そのまま治療者が応じていくと、逆効果なことが多いです。

また、本当は内面に問題があり、症状はそれが体に現れていることも少なくないのですが、最初は関連性に気づいていないか、心の中の異変を言いづらくて、身体の不調を訴える方が多いのです。

カウンセリングや精神分析など、心理・精神的な治療の場面では、どういうことを目的にして、どれくらいの頻度で、どれくらいの期間、治療を続けるか、両者の間で最初に確認しておくことがとても重要です。

私が考えるに、治療のためとはいえ恥をさらすこと……自分のこころのなかを他人に打ち明ける行為が、患者にとっては賭けというか、勇気と決心とエネルギーがいるので、それとも関係があるのではないか?と思います。

何度も自分の状態を打ち明け続けても、よくならないとなると、先が見えない気持ちになり、落胆するのも無理はないです。

だから、なんのためにこのようなことをやっているか、ということを最初に確認することが不可欠なのですね。


私自身は、女性ですので、男性恐怖がある方でもその点は問題ない。また、かつてアダルトチルドレンそのものだったので、相談者の気持ちはすぐに理解できます。また、どのようにしていけばよいかのアドバイスも、さしあげることができます。

他の治療者の方の手前、語弊があるかもしれませんが、半年をこえる長期のカウンセリングは、私がやっているアプローチでは必要ないです。


『幸せの絆を求める女たち―心療内科の診察室から』大林正博著・アマゾン紹介リンク

この本の内容

第3章 ボーダーラインケース(境界例の症例)(1/12)

第7章 抑うつ状態(2/12)

第6章 反応性うつ病(3/12)

第1章 神経性過食症(4/12)

第2章 神経性食欲不振症(拒食症)(5/12)

第10章 人の意向にばかり合わせるくせがある(6/12)

第9章 自律神経失調症(7/12)

第8章 過敏性腸症候群(8/12)

第5章 パニック障害(9/12)

第4章 対人恐怖症(10/12)

第11章 解離性障害(11/12)

エピローグ そして誰もが絆を求めている(12/12)


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