(1)不安神経症に悩むフランス人/娘と母という関係/『血と言葉』から

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『血と言葉』の社会的評価

『血と言葉』は、フランスの作家マリ・カルディナル
(Marie Cardinal 1929-2001)の小説です。

原題は、『それをいう言葉』(Les mots pour le dire)。
パリのグラッセ社から刊行と同時に、一躍、読書界の注目を浴びました。
作家自身の、神経症の精神分析体験をもとに構成された小説で、
発表されるやいなや、大きな反響を呼びました。

有力新聞雑誌の書評で絶賛され、テレビや雑誌のインタビューが相次ぎます。
エクスプレス誌ベストセラー・リストで20週以上第2位となり、
読者からの手紙が何千通も届き、1983年3月までに11ヶ国語に翻訳されています。

マィガロ紙、ヌーベル・オプセルバトゥール紙では「熱烈な精神分析礼賛の書」、
マガジン・リテレール誌「フロイト以来、もっとも優れた精神分析治療の記録」
と評されています。
 

『血と言葉』と私

なぜこの本をご紹介するのか?
これこそ、私が出会った膨大な量の書物のうち、もっとも有益で、
恩書というべき一冊だからです。

(私は神経症という心の病気にかかっているのだ)と知って安心し、
精神分析というものをすれば治ると確信し、
希望がみえ、人生の転機となった大切な文献だからです。

精神分析療法を通して、一人のフランス人女性が自分を取り戻し、
たくましく成長していく過程が、たしかな構成力、豊かな表現力とで、
ドラマチックに紙上に再現されています。

ここに書かれているのは、神経症を患っている「患者」でもなく、
医者が治した神経症という病気でもなく、
母と娘の愛憎の真実のドラマです。

一人の人間が育ってきた環境と、両親と自分それぞれの結婚生活、
子育て、作家としての才能、その他の人生全般なのです。

絶版になっていますが、著作権に配慮しながら考察を書いてみました。

『血と言葉』のなかの文章を何ヶ所も引用して物を書くことについては、
翻訳者の柴田先生から許可をいただいています。
注釈も、私がつけたものです。 
 

自分の母親の、女性としての姿


 私はうなだれ、母の名前を考えた。

これまで、母には名前がなかった。私の母、だった。
パリのこの診察室で、私は生まれてはじめてソランジュ・ド・タルビアック(オペレッタにでも登場しそうな名前だ!)、友人たちからはソソと呼ばれていた女性とめぐり合った。

太陽の下、赤毛の女の肌は暑さに弱いので、大きなつば広の帽子をかぶり、上唇の上にうっすら玉の汗を浮かべていた<ソソ>。
実家の庭で、白いモスリンのドレスのすそを小道のローズマリーの枝にひっかけたまま、花束を腕に抱きかかえて立つ<ソソ>。
こちらに向かってくる男、冒険の匂いに満ち満ちた美男のフランス人への思いがけない欲望に胸ときめかせて。
しとやかで、みずみずしく、けがれを知らない<ソソ>。
美しく澄みきって、幸福に貪婪(どんらん)で、無知な<ソソ>の緑の瞳……。

 私は感動で息がつまった。
目の前で語るこの女性に強く心を打たれた。
彼女はあまりにもナイーブで、しかも絶望的だった。
そう、もはや手遅れだった。

  ――『血と言葉――被精神分析者の手記』本文302ぺージより
 

幸せへの期待と、老いと絶望

ここは、私がこの『血と言葉』のなかで、自分の母親にたいする娘(筆者マリ)の、
同じ女性としての理解と共感を、一幅の美しい絵のようなイメージのなかで
強く印象づけられたくだりです。

マリはアルコール依存症で鬱状態の母親を引き取って一緒に暮らしていたのですが、
母親の症状がひどくなり、断酒の治療のため入院させることになりました。

入院の前に医師の診察を受けるとき、
母親がどうしてもマリと夫に、診察に立ち合うようにと譲らず、
マリは夫とともに、母親が医師に向かって自分の半生を話すところを聞いたのでした。

ここにいたってマリは初めて、自分の母親を、一人の女性として知ったのでした。

マリの母親の、裕福で美しかった娘時代の自信に満ちた幸福感にくらべ、
心の拠り所を失い、老いさらばえ、身の置き所がなく、
アルコールで自殺を図るほど、絶望の淵に立っている現在との対比に、
胸が締めつけられるようなせつなさを感じました。

 

記事>不安神経症の克服成功談『血と言葉』マリ・カルディナル
(1)不安神経症に悩むフランス人/娘と母という関係/『血と言葉』から


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