誕生トラウマとプライマリー(スクリーム)セラピーvs心療内科の断食療法(69号 2005・6・16)

めずらしく朝配信してみました。(^^)  

ではさっそくいってみましょー。

アリス・ミラーと原初療法(プライマリーセラピー)

アリス・ミラーが1979年から1981年にかけてドイツで発表した『才能ある子のドラマ』、
『魂の殺人』、『禁じられた知』の三部作はベストセラーとなり、アリス・ミラーの名は
世界中に知られるようになりました。  

アリス・ミラー博士は、『禁じられた知』で精神分析を批判し精神分析界と訣別した後、
一時的に、コンラート・シュテットバッハー博士の自分でできる初源療法(原初療法・
プライマルセラピー)に傾倒する時期を迎えます。

原初療法とは、長期の入院日数と、多額の費用もかかり、治療期間中はお酒・タバコ
はもちろんのこと、気晴らしの散歩やテレビ、人と面会するのも禁止、外界との接触を
いっさい断つ、かなり禁欲的な治療法です。 

心療内科の断食療法

禁欲的といえば、心療内科で行われる断食療法も同様です。
断食療法は、患者を入院させて断食をさせます。
ほうじ茶のみ飲ませる場合も、点滴をする場合もあります。
断食のあとは、重湯などからしだいに固形食に戻していきます。

心療内科で行う断食療法も、原初療法と同じく気晴らしになるようなことはいっさい禁じます。
また、断食期間中には、いままで親にしてもらったこと、
迷惑をかけたことを書き出させる内観法を並行して行う場合もあるようです。
(内観法には、「親を敬いなさい」という儒教の精神が見られます。
 内観法は、よくも悪くも東洋的だと思います。)

ジョン・レノンとアーサー・ヤノフ博士

原初療法(プライマリー・セラピー)と聞いて、アーサー・ヤノフ博士の原初の叫び療法
(プライマリー・スクリーム・セラピー)を連想する方もいらっしゃるかもしれません。

『原初の叫び療法』とは、患者の精神が病んでいるのは、
赤ちゃんの時代にその原因があるとして、
プライマルな(最初の・原始的な・本来の・根本の・初歩の)精神状態に戻って、
愛されなかった時代の苦しさと嘆きに没我状態になり、「お母さん、お母さーん!」と
必死になって叫ぶことで感情の解放を図るものです。 

ちょうど、母親を見失った子供が不安でパニックになったり、
癇癪を起こした母親に引っぱたかれて顔を真っ赤にして声を枯らして
泣き叫ぶような状態を、身体がもう一人前になった大人が真剣に再現するのです。

すごくしんどそうですね。。。しかし、当時としては自分とじっくりと向き合い、
子供時代の心に迫るための、斬新で革新的な治療法だったのでしょう。 

アーサー・ヤノフ博士の原初の叫び療法は、元ビートルズのジョンレノンが受けて
成功したこともあって、瞬く間に評判になり、たくさんの患者が殺到して順番待ちの
リストが長くなり、受けたくても受けられない人があふれました。

誕生(バース)そのものがトラウマになる理由

原初療法(プライマリーセラピー)の特徴は、幼児期の他に、
胎児期と誕生の瞬間にも着目することだと思います。
おそらく、欧米では誕生のときにトラウマを負うことが多かったからでしょう。

赤ちゃんが生まれたとたん、産声をあげさせるために、
乱暴に逆さ吊りにして引っぱたき、母親の手から24時間以上引き離して、
いろいろな化学的処置をほどこすのがつねだったそうですから、
赤ちゃんにとっては誕生した瞬間から、知らない人に小突き回されて、
孤独と恐怖の連続だったに違いありません。

ここらへんは、日本では事情が違いますよね。
そのため、プライマリー・スクリーム・セラピー、

   プライマリースクリームとは、おそらく産声のことではないかと思うのです。

このセラピーが、西洋人にバッチリ効果的だったほど、
日本人にもそのまま反映するとは、私は思えません。

ヒプノ・セラピーが重視するもの

プライマリー(スクリーム)セラピーと同じく、
ヒプノ・セラピーも西洋生まれですから、当然似たようなアプローチがあります。

受講生さんからもうかがったことがあるのですが、ヒプノ・セラピストのなかには、
クライアントの胎児期、誕生の瞬間、新生児期に重点を置き、その時期の両親の会話や
感情についての記憶までくわしく思い起こさせて、クライアントの当時の悲しみや痛み、
歎きの感情を思い起こさせるアプローチをとっている方がいらっしゃるようです。 

たしかに、それが一番よい場合もあるでしょう。
でも私は、十人中十人とも、その時期まで遡る必要があるとは限りません。

つらさを思い出すだけで、ただそれだけで自動的に安らぎや平和や
喜びに満たされるほど、人の心は安くはありません。 

辛かった出来事をただやみくもにほじくり出すだけでは、心は癒されない。

トラウマ記憶をやみくもに引っ張りだすと、心のバランスを失う

心の悩みを抱えている人は、忘れていることで精神の均衡をなんとか保っている、
想いだないことで心のバランスを取っている場合が多いのです。
安易に思い出させればよいというわけではない。周到さが求められるのです。

 
さて、アリス・ミラー博士が一時期傾倒した
コンラート・シュテットバッハー博士の話に戻ります。

コンラート・シュテットバッハー博士のプライマリー・セルフ・セラピー

このシュテットバッハーという心理療法家は、原初療法(プライマリー・セラピー)を
<自分ひとりでも安全にできる治療法・セルフ・セラピー>の形に修正して、
1990年に発表しました。
それがコンラート博士自身が著した『こころの傷は必ず癒える
〜抑圧された子ども時代に向きあう療法〜』です。

アリス・ミラーは何年か前にすでにこの療法を知って効果を実感しており、
本の初版のまえがきに、出版を待ちかねてでもいるように、
発行日よりも早い日付の1989年9月づけで最大級の賛辞を寄せています。

しかし、このときのミラー博士は、その後に、
自分がこの治療法のもつ大きな欠点に気づき、自分が他の人に向かって、
この治療には大きな危険があるから、一人では行わないようにと、
警告するようになるとは、想像もしていなかったことでしょう。

この心理療法治療のためのセルプヘルプ本『こころの傷は必ず癒える』は、
アリス・ミラーが推薦したというので、たいへんな評判になりました。
もともと本のサブタイトルが『アリス・ミラーの推薦している治療法』となっており
早々に重版となりました。

アリス・ミラーはさらに、1990年7月、この本の第三版にあとがきを寄せ
「療法家がいなくても一人で安全にできる方法である」と太鼓判を押しています。

また、ミラー博士は、同じ出版社から同じ1990年に出版した自分の本
『沈黙の壁を打ち砕く 子どもの魂を殺さないために』のなかでも、
シュテットバッハーの初源療法(原初療法)をとりあげ、
以下の言葉で高く評価しています。

「アーサー・ヤノフ博士の原初の叫び療法の本は、
原初療法の理論が述べられているのみで、素人が自分でやってみる助けには
なりませんでした。
しかし、この本『こころの傷は必ず癒える(原題:もし苦しみに意味があるなら)』には、
具体的に四つのステップ(段階)を踏んだ方法が書いてあり、
患者が一人でも安全にやりとげることができます」

しかし、アリス・ミラー博士はやがて、シュテットバッハー博士の
初源療法のセルフ・セラピーには、ひとつの重大な欠点があることに気づくのです。

ご自分のウェブサイトでも警告しています。
「初源療法(原初療法)を一人でやるのは危険です。
しかるべき治療家を探し、一人では行なわないでください」と忠告するようになるのです。

アリス・ミラー博士は、最初はなぜここまで
シュテットバッハーのセルフ・セラピーに傾倒し、やがて批判し、
距離を置くことになったのでしょう? 

そのわけは、次号へ続きます。。。。。。。


アリス・ミラー博士の著作(数字は原著が発行された年号です)

1.1979年:才能ある子のドラマ アリス・ミラー 
http://tinyurl.com/8zjpz

2.1980年:魂の殺人 親は子どもに何をしたか アリス・ミラー 
http://tinyurl.com/8bayq

3.1981年:禁じられた知 精神分析と子どもの真実 アリス・ミラー 
http://tinyurl.com/9m2cb

4.1985年:「こども」の絵 成人女性の絵画が語るある子ども時代 アリス・ミラー
http://tinyurl.com/db5n4

5.1988年:真実をとく鍵 作品がうつしだす幼児体験 アリス・ミラー
http://tinyurl.com/8vcy4

6.1988年:―本邦未刊―(仮題:呪われた知)アリス・ミラー

7.1990年:沈黙の壁を打ち砕く 子どもの魂を殺さないために アリス・ミラー 
http://tinyurl.com/dc8e9 

8.1998年:子ども時代の扉をひらく 七つの物語 アリス・ミラー
http://tinyurl.com/avxgv  

9.2001年:闇からの目覚め 虐待の連鎖を断つ アリス・ミラー
http://tinyurl.com/7rteb 

アリス・ミラー博士が一時的に熱烈に賛美し、推奨した本

こころの傷は必ず癒える 抑圧された子供時代に向き合う療法 
J.K.シュテットバッハー
http://tinyurl.com/ag9p8

『プライベート・アイズ』受講生さんからいただいたメール

プラアイについて、私自身の大きな喜びは、
最初の意図通り、
受講生さんご自身が、それまで通りの日常生活を送りながら、
無理のない形で、もっとも的確な答を、すみやかに見つけていかれて、
精神的に楽になって毎日が楽しくなっていかれることです。(*^▽^*)  

通信講座『プライベート・アイズ』についてもっと知りたい方はこちら↓
http://hiraiyoko.com/nh.html
 

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●編集後記
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ミラー博士の本は大好きなのですが、
全体的に暗いのはしかたないにしても、似たような記述が反復して繰り返され、
どこか論争的なため、途中で読むのがしんどくなることがあります。

もちろん、その欠点を補ってあまりある優れた著書なのですが、
もしかしたら、博士はポーランド生まれなので、
他国からの侵略や圧政のなかで生きてきた民族の血が、
博士の思想や性格にも色濃く影響しているのかな、
それとも、精神分析から離れて子供の弁護をして、
批判の嵐にもまれてきたから?などと想いをめぐらせたりしています。

(最新刊の『子ども時代の扉をひらく』では、これは創作なので
自由に書けて気楽になれたのでしょう、これまでの本よりもだいぶ
明るい口調になっています)

今回、原初療法(プライマリーセラピー)のことを、皆さんにもわかりすい
簡潔な文にまとめるのに苦労していますが、
とにかくこのテーマを書き終えるまで、もう少し頑張ってみます。

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